
セミナー・イベント情報
社会的知能発生学研究会
サンダイヤルレポート No.106号 (2005年7月)
内容
1.第14回社会的知能発生学研究会開催報告
| 平成17年6月25日(土)~26日(日)株式会社けいはんな主催の標記研究会が開催されました。 以下にその報告をいたします |
- ベイズ推定と強化学習の理論とアルゴリズム・
- ラットとサルの神経活動記録・
- 人間の脳活動計測・
- ロボットによる報酬系の進化機構の研究が紹介された。
また、さらに踏み込んで、サルを対象としたご自身達の研究から、線状体は行動ごとの報酬の期待値を計算しており、淡蒼球でその行動の選択が行われているのではないかと指摘された。 さらに、強化学習に重要なメタパラメータが存在し、それがセロトニン等の神経修飾物質と密接に関わっているのではないか、との考えを紹介された。
具体的には、ヒトを対象としたfMRIの研究で、ある試行での行動の選択は、その試行だけでなく、次試行の報酬量も決定する課題を用いて、すぐに報酬を得ることを期待する状況と、先々まで考える状況を設定し、それぞれの脳活動を記録した。その結果、長期的な展望にたって報酬を得る状況では、背側の前頭前野領域や頭頂葉、脳幹の縫線核が活動した。また、長期的な報酬予測誤差には線状体の上のほうが、短期的な予測誤差には線状体の下のほうが活動を強めることが明らかになった。
縫線核はセロトニンの分泌に関連しており、短期と長期的な報酬予測を調整しているのではないかと指摘された。以上のような行動学習はラットでも可能なことから、銅谷氏の研究室ではラットのオペラント学習時の神経活動のユニットレコーディングの計測が進められており、また5分間のスキャンレートで脳内の神経物質量を測定できる、マイクロダイオリシス装置も導入されて、ラットを対象とした行動・神経学的な実験系が立ち上がりつつあるところが紹介された。
また、理論的研究を進めるために大型並列計算機を導入し、ベイズ推定に基づいて細胞内分子反応系などの観察できないパラメータの推定を行っていることが紹介された。 さらに、「サイバーローデント」と呼ばれるロボットを用いた研究の概略が紹介された。このロボットは、動物が生き残りをかける2大目標である生存と再生産能力を有しており、実機でシミュレーションできるものである。 このプロジェクトの具体的な成果については続いての内部研究員から紹介された。
2件目は、沖縄科学技術大学院大学先行的研究事業の内部英治研究員から、「サイバーローデントプロジェクト」との演題でご講演いただいた。これは、脳の柔軟な学習状況を支えている神経回路と物質系の機構の解明を目指したものである。具体的には上述した「サイバーローデント」と呼ばれるロボットを用い、計算能力やセンサ能力が制限されている中で、うまく働く学習や進化手法について研究されている。
まず、強化学習に自然勾配を導入する方法が示された。情報幾何の知見から、フィッシャーの情報行列の逆行列を用いると、サブオプティマルにはまらずに最急勾配方向を表現できることがわかっていたが、非常に計算コストが高く、実ロボットに実装するには適さなかった。そこで、逆行列の計算を必要としない手法が示された。 ロボットによる報酬系の進化機構の研究では、ロボットが学習すべき報酬関数を、
- タスクを達成したときに与えられる報酬・
- ロボットの基本動作に関するコスト・
- タスクを達成しやすくするための副報酬の3種類
に分け、3番目の副報酬を複数のサイバーローデントを用いて改善する方法が示された。各ローデントが個別に副報酬を持ち、個別に学習する。偶然に他のローデントと遭遇したときに相手の副報酬とそれまでのタスクの達成回数を知ることで、自分自身の副報酬を改善する。
また「並列強化学習アーキテクチャ CLIS」と呼ばれるアーキテクチャが示された。これは、構造の異なる複数の学習器が相互作用しながら同時に学習するという特徴をもつ。AVRLと PGRLという2つの代表的な学習アルゴリズムの長所と短所を整理して示され、両方の状態表現やアルゴリズムを単一のロボットに実装し学習させるという試みが紹介された。 CLISは、要素アルゴリズムを単体で学習させるよりも学習の効率が良かった。しかし、最終的に残ったアルゴリズムは複雑な形式のもので、単純なアルゴリズムは初期の学習を加速するためだけに用いられている可能性も指摘され、各学習器の計算の複雑さに起因する行動決定までの時間の違いを考慮した、拡張版 CLISの可能性についても言及された。
講演の3件目として、大阪大学大学院工学研究科の細田耕助教授から、「ロボットの身体と知能の設計」という演題でご講演いただいた。知能は制御則(脳)内だけではなく、ロボットの身体のもつ特性の中にも宿っているとの主張が、細田氏が進められている空気圧二足歩行ロボットと人間型柔軟指と共に紹介された。
はじめに、本会メンバーでもある宮下敬宏氏とかつて共同で開発された、目の前を移動するターゲットを追従して歩く四足型ロボットが紹介された。これは、観察される振る舞いの「知的である」ことと裏腹に、実際には、
- ターゲットを視野の同じところに入れ続ける・
- 倒れそうになると足を出す
という2つの単純なルールで動作していることが示された。これは、適切な位置にセンサを配置することで、部屋中のゴミを集められるスイスロボット(いわゆるブライデンベルクビークル)と基本的な考え方は同じであることが紹介された。また、フランチェスカらのグループが行っているハエの複眼についての研究を引用し、生物もいかに単純かつ巧妙に設計(配置)することで、高度な(眼の場合は視覚上の)問題解決を行っているかを説明された。
それらのことから、身体の設計を単純にすることで、制御を単純にできる可能性が示唆された。 その後、身体設計を利用した二足歩行ロボットについての説明があった。細田氏が開発されている二足歩行ロボットは、制御則に歩行モデルをもたないもので、身体と環境の相互作用を利用したものである。
コリンズらによる、3次元受動歩行のアイデアをもとに、空気圧と足先のタッチセンサの入力情報を利用することで、段差も超えられるロボットを開発された。このロボットはその気になれば(圧を高めれば)ジャンプもできるそうで、今後の展開が期待される。
続いて人間型柔軟指についての説明があった。これは人工指の内部に多数のセンサを入れることで、対象表面の摩擦や、すべりを判別させるものである。しかし、ロボットにどのように滑りを教えるか、ということが問題となる。それを視覚と触覚の相関によって解決された。すなわち、視覚情報と触覚情報を連携させ、最初は視覚情報を触覚にコピーすることで学習させた。その結果、学習後には視覚では動いているかどうかわからない範囲の動きも、触覚で検知できるようになると説明された。どちらの研究も、構造をよく考えることで高度な機能を実現できることを示しており、今後構造についても十分考慮していくことが必要であろう。
講演の4件目として、作家の瀬名秀明氏から「『デカルトの密室』で自由は進化する?デカルト劇場でミステリー小説を書く方法」という演題でご講演いただいた。2004~2005年にわたり連載され、本年8月に刊行が予定されている『デカルトの密室』という長篇小説に関連するトピックを中心に、「心」と「人間」と「社会」の関係について、様々な角度からの考察を紹介して頂いた。
デカルトは心身二元論を主張したことで未だに悪名をはせているが、これは動物の研究者だけでなく、他の領域の研究者にも評判が良くないことは驚きであった。そのデカルトの経歴や思想の変遷などについての紹介があり、これまで知らなかったデカルト像が浮かび上がった。
特にエリザベトとのやりとりのくだりで、歴史に名を残す大学者が20代の女性の質問にたじろぐさまなどは、大変興味深かった。デカルトは、脳内にいるホムンクルス(小人)が外界の状況を見ているとの考えを述べたが、その「デカルト劇場」は多重構造になっていることが指摘された。すなわち、脳を取り囲む環境である人間との間には心身二元論の問題があり、さらに人間はある空間に存在しており、その空間を出ると社会というさらに大きな環境があり、様々なレベルの密室が存在するのである。
瀬名氏が提案された逆チューリングテストともいうべきものも興味深かった。「どれがもっとも機械らしいか?」ということを人間が競い合うという状況を作ることだそうだが、「どれがもっとも動物らしいか?」ということにも応用でき、(他の動物との区別における)ヒトとは何か、あるいは本会にて継続的に行っている「賢さセッション」で議論している“ヒトの賢さとはなにか”という問題にも関連するのではないかと考えられる。
ミステリー小説の構造とその問題についても解説された。作者が犯人であり、読者が探偵で、作品としての被害者があるというミステリー小説における構造は、実は犯人が作者である以上探偵が与えられている情報は犯人から与えられているのであり、「解けた」と思った問題は実は解けていない(探偵である読者がもつ情報は犯人によって制限されている)可能性を指摘した作家・法月綸太郎氏の解説を紹介された(後期クイーン問題)。
この考え方は非常に新鮮であると同時に、ミステリー小説を書くこと及び、読むことについても大きな問題があることを意味している。さらに、その構造を開発者(作者)-ロボット(読者)-環境(被害者)と置き換えることで認知発達ロボティクスが内包する限界について触れ、小説内では作者の視点とロボットの視点を交換することで後期クイーン問題への新たな視点を提供されている。
続いてダニエル・デネットが考える道徳の自由意志について紹介された。デネットは自由を大きく2つに分類している。1つは、トリがどこにでも飛んでいける生命体としての自由で、もう1つは私たちが「自由意志」と呼ぶ人間の自由である。
その自由意志とは道徳的責任と表裏一体で、さらに道徳は言語によって成立しているので、言語を獲得した人間の自由は他の生物の自由とは異なるとの見解を紹介された。そして、自由意志と視点問題について言及され、ロボットの自由意志をどのように考えるかの議論になった。 ここでの「視点問題」は、英語と日本語においても異なる、との大津栄一郎氏の説が紹介された(視点問題とは異なるが「Mind」という語が指すものと「心」という語が指すものも違うらしい)。
「視点の問題」は、小説での人称の使用とも密接に関連しているそうで、どのように小説で視点を取るかによって、読者を共感させたり感情移入させられる、ということが説明された。 また、日本語も主語を含めた完全文を作るように訓練することで外国語の習得が早くなり、さらに視点の切り替えの訓練によって、他者の考えがよくわかるようになる、との三森ゆりか氏の「主語教育」についても紹介された。
瀬名氏は、日本の社会では、そのような文で会話を成立させるのは困難であるが、ロボットのコミュニケーションを考えたときには有効ではないかと説明された。しかし、ロボットがコミュニケーションしたとしても、そこに論理はあっても倫理が存在しない可能性が考えられるらしい。そこでロン・クラーク氏の倫理教育が紹介され、ロボットに倫理を教えるために、「共感」が必要ではないかと指摘された。
続いてアシモフの「ロボット三原則」について開陳された。1940年代から始まるシリーズであるが、1985年に第零原則が追加されたことで、その原則は一般に知られているように3つではなく4つになっていたらしい。アシモフについての博覧強記ぶりには、ただただ驚くばかりであった。
その後、デネットの道徳論・自由意志論に対抗して東洋哲学を取り込むことで、新たな考えを導入できるのではないか、と述べられた。その例として、和辻哲郎氏の倫理学を紹介された。「倫理学」とは、物理学や生物学のように対象が限定されているわけではなく、そもそも「倫理学とは何か」を問うことであり、それは明確な定義が存在しない「ロボットとは何か」に通じると指摘された。
さらに、市川浩氏の「身分け」の構造について説明があった。「身にしみる」「身につく」「身内」など、われわれの「身」の範囲はその文脈に応じて大きさが変化するらしい。いわれてみれば、「心」「人間」「社会」のどの文脈に注意しているかによって変化しているように思われる。
最後にロボットに動機づけを与えることと関連して、「よい」とはどのようなことか、という議論をされた。英語でも日本語で用いる漢字でも多様な「よい」があるが、大きく分けて本能的に感じる「よい」と、物事に照らし合わせて考える「よい」の2つがあるらしい。われわれの道徳観は、偉人伝などから、成功者の見まね学習として獲得した学習であるかもしれないと述べられ、模倣の重要性が浮き上がった。
(報告者:名古屋大学大学院 情報科学研究科 川合伸幸)
今回で3回目となる「賢さセッション」では、まず人間と動物との差異が話題の中心となった。動物は自分が持っている行動レパートリーと干渉する行動は学習ができないが、少なくとも霊長類はこの壁を破ることが可能であるらしい。
しかし、ヒトと違ってサルは眼前に存在しないものを考えることができないようだ。すなわち、記憶に残り眼前の情景だけにとらわれること無く、想像たくましくしたり推論をしたりすることができるのはヒト特有のようだ。
関連して、ヒトの類推(analogy)の能力は顕著だ、という意見が出た。未知状況における問題解決において、既知情報から何とか類似した状況を見つけ出す能力が高いということだ。この類推を実現する脳内のアルゴリズムとデータ構造(表象を含む)が賢さの鍵の一つであろう。
また、サルの社会はヒトの社会とどう異なるかも話題に上った。サルは、積極的に他者に様々なことを「教える」ことをしないそうだ。サルは、相手と自分のどちらがランクが上か、という知識に直結した行動しかとれないそうで、先程の眼前に存在しないものを考えることができない性質と関連があるだろう。
また、ヒトが行う豊かなコミュニケーションとも対比的である。ヒトのコミュニケーションでは、表情や身振りなどの内面の積極的な表出が大きな役割を担っていると思われる。社会が円滑に運営されるためには機能的な役割分担が大事であるから、役割がはっきりする「他者に向けた自己の表象」を作っておくことが一般に大事ではないだろうか(だからこそ人の性格や行動パターンには典型性があるのかもしれない)。
以上、今回の賢さセッションでは「表象」が最重要キーワードだったと思う。古典的な記号接地問題とは異なる視点で今後議論ができるのではないかと期待が得られたセッションであった。 賢さセッション
(報告者:奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 柴田智広)
2.第12回けいはんなWeb Semantics研究会開催報告
| 本研究会は2003年4月に発足し、趣旨に賛同する個人及び法人が会員となり、その中に組織された幹事会が中心となって研究会活動を行っているものです。 株式会社けいはんなは、賛助会員としてまた事務局として当研究会を支援しています。 第12回研究会が参加者21名を集め、2005年5月17日(火)けいはんなプラザにおいて開催されましたので以下に概要を報告致します。 |
今回は米国のメリーランド大学から来日された三名の方に最近の成果を報告していただきました。
一件目は,Bijan Parsia氏によるご発表でした.前々から複数のオントロジを跨いだ推論について研究されておられる氏によって,オントロジをつなぐ「E-connection」と呼ばれる記述様式についてご説明をいただきました。 E-connectionを用いて記述することで二つのオントロジ間の推論に要する時間は,オントロジがひとつの場合の2倍以内に抑えることができることをご説明いただきました。また,オントロジを意味的に一貫性を保った最小限のモジュールに分解して利用する利点についてご説明いただき,モジュールに分解する手法についてご紹介いただきました。
次に,Evren Sirin氏から,ウェブサービス提供のテンプレートを作成するという研究についてご発表いただきました.複数のサービス提供を同時に提供する際に必要な要素は何かを分類し, 独立な操作は平行して行うことでサービス提供までの時間を短縮する手法についてご説明いただきました.また,必ずサービスが満たさなければならない「厳密な制約」と, 他に方法がない場合以外は満たさなければならない「緩やかな制約」の二種類の制約をユーザが記述可能にすることで,より柔軟にサービスの要望に応じることのできる基盤作りについてもご紹介いただきました。
最後に,飛行機の移動などを取り扱う「移動のロジック」について, Fusun Yaman氏にご発表をいただきました.物体の移動を「go」「in」「near」「far」の四つの要素で記述し,複数物体の地図的関係のクエリを可能にする方法についてご説明いただきました.これらの移動の4要素は,移動の開始時刻と終了時刻を明確に記述するのではなく,一定の期間内に開始,および終了するという,幅を持たせた記述を可能にしていることが特徴的でありました.提案手法に基づいたクエリシステムのプロトタイプのデモが行われ,様々なユースケースに対する応用の可能性を示していただきました。
(文責:NTTコミュニケーション科学基礎研究所 服部 正嗣 )
3.世界物理年記念事業 けいはんな子ども夢フォーラムご案内
|
◇科学実験講義(講演会)(要申込み)
「理科はおもしろく、役に立つ!」 -電気と磁気- 有馬朗人氏(元文部大臣・元東京大学総長) ◇科学実験工作ブース(当日受付・先着順) きっづ光科学館ふぉとん出張実験工作教室 |
| 日 時 | 2005年8月11日(木)12:00~16:30 |
|---|---|
| 会 場 | けいはんなプラザ イベントホール |
| テーマ | インパクトのあるニュースリリースとは |
| 対 象 | 小学生~高校生 |
【問合せ】日本原子力研究所関西研究所 けいはんな子ども夢フォーラム係
TEL :0774-71-3011(打越)

